さて、二日目も無事に起きることができた。
 正直朝起きることさえ乗り切ればあとはもう大丈夫だ。

「それじゃお母さん、今日も駅まで送ってくれ」
「うむり」
 今日は特に本屋に寄ることもなく普通に駅へと向かう。
 まぁカバンの中にまだ読み終わっていないラノベもいれてあるし、暇ができたらそれでも読むことにしよう。
「では今日も頑張ってくるなりよー」
「あぁ。帰りは電話で呼べばいいのか?」
「肯定なり」
 これが親子の会話だぜ。

 駅で友達と落ち合って電車に乗り込む。
「そういえば昨日の国語のテスト、過去最長の問題だったらしいぞ。しかも全体的に今回は難化傾向だってさ」
「そうか、道理で長いと思ったんだよ。古典で3ページって俺初めて見たもん」
 って、こんな他愛のない会話をする。

 う~む、到着するまではまだ随分と時間があるな。
 そうだな、この空き時間を使ってちょっと昨日の事について補足しておこう。
 昨日のリスニングのテストだが、実は書き忘れた重大な事件があるので補記しておこう。
 そいつは昨日リスニング開始5分前、みんなぴりぴりとしだしたぐらいの時間に突然動きだした。
「あの、まだ5分あるんでトイレ行っても大丈夫ですよね!」
 やけに明るい声で立ち上がったのは例の彼だ。
 彼の行動にクラスのみんなはさぞ衝撃を受けたことだろう。
 慌てた試験官が同伴しながら厠へと向かう彼の後姿はとてもリラックスしていた。

 と、そんな事があったのだ。長老、神経質な彼、漫画を読む男、トイレ男。
 やはり俺のクラスは精鋭部隊だ。今日もあそこに行かなくてはいけないのかと考えると鬱屈になってくる。

 「あれ、孔雀じゃない!?」
 何か変な声が聞こえたがきっと幻聴だろう。
 「あやや、よく見ると他にも何か懐かしい奴らおるがい!」
 「よう、マメ」
 そう、声の主はマメだ。あだ名の通り体も心も小さいミジンコよりもとるに足らない生き物だ。
 「ところでフロド、アニリンってさ……」
 「おい、なんで孔雀だけ無視するん」
 「あ!」
 フロド君はやっと思い出したようで
 「ごめん、マメにあったら無視し続けるって言う中学の時からの暗黙のルール忘れてた。」
 まったく、今頃思い出すなんてまだまだだな。
 「何そのルール!?」
 んで、久々に会った(半年ぶりくらい)マメをスルーしたまま。やがて電車が到着し、昨日と同じようにバスで会場に向かう。
 ちなみにマメは俺達とは違う会場での受験だ。

「孔雀今日はマンガ読まんのん?」
「あぁ、今日は物理があるからな」
 そう、今日は理系科目の日だから物理がある。
 俺は物理は大の苦手……というかさっぱりで、いつも電気以外は完全に勘でマークしている。そのせいで物理の点数はいつも20点とか30点なのだ。
 筆記試験では2回ほど0点を取っている。わからないわけじゃない、知らないだけだ。
 だから今日の休み時間で何とか物理をマスターしなくてはいけない。残り時間が厳しいがもしかしたら天才かもしれない俺ならできるはずだ……。
「今から物理の勉強するの!?」
「あぁ」
「孔雀、お前の物理は確かにやばい。なぜそんなになるまで放置したのかと疑問に思うほどな。だけど、いくらなんでも治療が遅すぎる。絶対手遅れだ。」
「だけどな、間に合うかもしれないだろ」
 参考書をぱらぱらめくる人の中で一人一夜漬けのように公式だけを書きだして例題を解いていく俺。
「違う意味でプレッシャーかかるな……そこまでガツガツ勉強されると」
「そうか、ならば一石二鳥だな」

 そして最初の数学1の時間になる。
 教室に入ると、やはり昨日の顔触れがいる。
 おはよう長老。今日も髪型決まってるじゃねーか。
 よう、神経質。今日もウザイ事するんだろ。
 やぁ例の彼、久々だな。
「俺はお前と一緒に電車に乗ってきたと思うんだが……」

 そして無事に数学の時間が済んだ。感想を言わせてもらうとしたら死んだ。ということだけだな。
 テストが終わった後で改めて死んだことを実感した。
 大問3の一番初めの問題、角度求める問題で
 cosθ=-1/2を出したのに
 何故かθ=135°と書いてしまった。

 そしてもちろんそのあとの問題も芋づる式に全滅。
 自分でもなぜそんなことをしてしまったのかよくわからない。今は後悔してる。
 人間緊張していると何をするかわからないものだ。
「お前に緊張なんてあるんだな……」
 失敬な。なんて無礼な友人たちだ。

「でもまぁ、何て言うか少し頭がクラクラしたかな。これマジでなんか病気かも」
「んなわけねーだろ。お前に病気なんてあるわけないんだから」
友人たちは俺をどう思っているのだろうか……。
「とにかく気持ち切り替えて次だな。あと後ろの奴ウザすぎ」
 さりげなくつく悪態がポイント高いと思う。というか、うざすぎてむしろ彼に対して愛着のようなものが湧いてきた。
「そういえば、お前の後ろにいる奴強烈だな……浮き過ぎだろjk」
 例の彼よ確かにお前の言う通りだが、お前自分を棚に上げるな。
「さて、ではそろそろ第二回どうやって長老に話しかけようか会議を始めよう」
「お前まだあきらめてなかったのか!?」
 例の彼はしつこくて粘っこいのだ。
「孔雀、何かないのか」
「そうだなぁ……怪しまれないように鉛筆を落として拾ってもらって、『ありがとうございます。ところで何浪ですか?』ってさりげなく聞くのはどうだ。」
「途中からあまりにも大胆過ぎるな……」
「ていうかお前それ失礼だろ」
 友達たちからツッコミがはいる。いい策だと思ったんだけどなぁ。

 そんなこんなでアホな会話をしているうちに休み時間が終わった。
 まぁ気持ちの切り替えは済んだからな。これで一時間目の事を完全に忘れ去って次の数学2のテストを受ける事が出来る。
 そして数学2の時間。後ろの奴がむちゃくちゃ鼻水ジュルジュルさせてて気が散ったけど、まぁ何とか終えた。
 まさか鼻水で攻めてくるとは、予想の範疇外でした。
「あの、私テスト中少しうるさかったと思うのですが問題なかったでしょうか」
 言いながら試験官に頭を下げる後ろの奴。とりあえず俺に謝れよお前。問題ありまくりだよ。

 さて、次は化学だ。とりあえず教室から出て……
「なっ!?」
 その時俺は見てしまった。
「あの、ちょっといいでしょうか」
 例の彼が長老に堂々と話しかけている姿を。
 これはやばい! 何かよくわからんけどまずい!
 俺はなぜか居たたまれなくなって教室から飛び出す。危なかった。
「孔雀、孔雀」
 俺に送れてもう一人友人が教室から飛び出してきた。思わずお互いの肩をつかみ合ってしまった。ホモじゃない。それぐらい俺達は戦慄していたのだ。
「どう思うよ」
「どう思うってそりゃ……あいつふてぶてしいな」
「ふむ、とりあえず覗いてみるか」
 教室の扉からさりげなく中の様子をうかがうことに。

「なんかものすごく楽しそうに会話してるぞあの二人」
「ていうか、あいつ(例の彼)のほうが偉そうだな」
 確かに彼は長老の机に肘と腕をのせて偉そうに話している。流石だな例の彼。傍目にはお前の方が立場が上のような感じにしか見えない。
 そのあとも二人の会話は続いていた。一体何を話しているんだ……。

 しばらくして例の彼が教室から出てきた。
「おい、お前、ど、どうやった!?」
「落ち着け孔雀」
「ひーひーふー、ひーひーふー」
「なぜにラマーズ……」
「で、長老はどんなお方だったのだ」
「そうだな、それを話すのは少し長くなる……」

 彼の話によると長老はかつて某旧帝大を卒業したらしい。そのあと就職し、定年まで仕事。
 そして退職後はきまぐれで某大学(準旧帝大クラス)に入学し、現在四年生。どうやらまだ大学に行くと言うので今回のセンター試験を受けたとのこと。
 つまり老後の暇つぶしとして大学受験しているのだ。息子二人もエリート街道爆走中。
 しかも驚いたのは、3つの学部全てが何の接点もなさそうなほどバラバラだということだ……。理系に行ってみたり、文系にいってみたり。
 なんなんだあの老人は……ハイパーおじいちゃんじゃないか。

「正直俺も戦慄している。あぁいう化け物がいるんだな……。進路の相談したら『自分が行った大学が気に入らなかったら、また違う大学に入学すればいいよ』なんて言ったんだぜ?」
「そうか……なんか急に長老が神々しく見えてきた」

 その後時間が来て席に戻った。
 化学は妙にリラックスして受けることができた。恐らく無難な出来だろうが、簡単すぎたので偏差値低そうだ……。(私はどんなに難しくてもどんなに易しくても大体同じぐらいの点数を取るので平均点低い方が偏差値高いのだ)

「さて次はいよいよ物理だ。一夜漬けの力見せてやる」
「一夜漬けですらないけどな……直前勉強だし」

 そして最後の科目、物理。まぁ付け焼刃で戦ってきた。付け焼刃なのであってるかどうかもわからない。
「終わった……」
 すべての教科が終わった。
「あの、この2日間は大変お世話になりました。取るに足らない質問の数々、非常に迷惑をかけたでしょうが……」
 後ろの奴が試験官に何か言ってる。うん、最後までお前はお前だな。
「……というわけで、非常に迷惑な受験生だったとおもいますが、ありがとうございました」
 頭を下げまくる後ろの奴。自分が迷惑だって自覚してる事に驚きだ。

 んで皆と一緒にバスに乗って駅まで来て無事に電車に乗る。
 ふと携帯の電源を入れてみると何通かメールがきてる。
「ちっ、全部マメからか。うざいから未開封のままゴミ箱行きだな」
「お前つめてーな……」
「まぁとりあえず開くか」
 開くとマメの写真が添付されていた。どういうことだあいつは。
 とりあえず俺も目の前のフロド君の写真を撮ってマメに送りつけてやる。

 しばらくして返信が来る。
 またもや写真だけのメールだ。あいつ、誰に写メ対決を挑んでいるのかわかっているのか……。
「フロド、今から俺がイケメンポーズするから撮影してくれ」
「わかった」
 そうして帰りの電車の中で写メ対決が始まったのだ。どういうルールなのかは俺にもわからんが。

 そうしてお互いに写真を送りあっているうちに駅に着いた。私が繰り出すあまりにも壮絶な写真の数々に恐らくマメはメールを開くたびに絶望を味わっていたはずだ。
 んで、親を呼んで家に帰る。
 こうして俺のセンター試験は終わったのだ。
 家に帰ってきて、放置していた自分のサイトを確認する。とりあえず絵を一枚投稿して寝ることにした。
 妙に頭が痛いからな。今日は早く休もう。



後日談へと続きます!